帝京大学 医学部心臓血管外科学講座

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僧帽弁形成術センター

僧帽弁の評価

逆流を有する僧帽弁は、病因、弁病変と部位を心エコー検査で詳細に観察することが重要である。病因は変性、虚血性(心筋症)、リウマチ性、感染性、先天性などに分けられる。しかしながら、変性については“myxomatous degeneration”、“floppy valve”、“billowing valve”、“flail valve”、“fibroelastic degeneration”、“Barlow’s disease”などの用語が使われているが、統一された見解に至っていない。Carpentierは術中の肉眼的所見から変性疾患をfibroelastic deficiency(FED)、billowing valve(その後の報告ではBarlow’s disease)に分けている[1,2]。また、Adamsは弁尖の余剰組織の程度から、これに病悩期間が長くなり弁尖の変性が進行したFED+、粘液変性はあるものの一部分のみであり弁輪と弁尖の大きさから明らかにBarlow’s diseaseと区別できるForme frusteの4つに分類している[3]。

  FED FED+ Forme fruste Barlow's disease
Pathology Impaired production of connective tissue Myxoid infiltration
Age at diagnosis >60 years >60 years Variable <60 years
History of MR <5 years <5 years Variable >10 years
Familial history No No ? Sometimes
Marfanoid features No No ? Sometimes
Auscultation Holosystolic murmur Variable Midsystolic click and late systolic murmur
      Systolic murmur
Echocardiography Thin leaflets, prolapse of single segment, ruptured chord(s) Bbillowing leaflets, one-segmental prolapse Bulky, billowing leaflets, multi-segmental prolapse
Surgical lesions Thin leaflets, thickening and excess tissue (if present) limited to prolapsing segment, ruptured chordae - Excess tissue, thickened and tall leaflets, chordal thickening or thinning, chordal elongation or rupture, atrialization of leaflets, fusion, fibrosis or calcification of chords
Leaflet tissue Normal/Translucent ++ ++/+++ +++
Anterior leaflet tissue + + ++ +++
Posterior leaflet tissue ++ ++ ++/+++ +++
Chordae tendineae Thin and ruptured Thin and ruptured Variable Thickened and elongated
Annular dilatation ≦32 mm ≦32 mm 32-36 mm ≧36 mm
Mitral valve repair Less complex Less complex Less complex More complex

また、Carentierは,弁尖の機能異常は開閉運動の増大である弁尖逸脱(leaf1et prolapse) と,開閉運動の減少である弁尖可動制限(restricted leaf1et motion) の2 種類しかないとして,弁機能不全を正常弁尖運動(norma1 leaf1et motion) を加えた3つに分類している. 僧帽弁形成術は病変に応じた術式を行うことが肝要で,この機能分類によって術式も整理される. さらに弁病変は僧帽弁の解剖を正しく理解した上で,各segmentに分けて診断する. 後尖は3つのscallopからなり,前尖も3つに分類する。2つの交連を含めて8のsegmentに分けられる[1]

日本循環器学会のガイドラインによるMRの治療指針、手術適応と手術方法の推奨を右記に示す[4]。基本的には症状、左室機能低下(LVEF<60%)、左室拡大(LVDs>40mm)、心房細動、肺高血圧の所見があれば手術適応となる。無症状での至適手術時期は議論のあるところである。経過観察での心事故(突然死)が多いこと、無症状での手術例は有症状より遠隔生存率が高いことより手術を推奨する報告[5]と、突然死は少なく慎重な経過観察により2/3は症状が出現し、1/3は左室機能低下、心房細動、肺高血圧で手術になったとする報告[6]がある。これらの報告から、多数の症例数を有する外科施設では無症状や左室機能正常例であっても、僧帽弁形成術の予測性と長期安定性が高いと考えられる高度逆流例は手術適応とされている[4]。


手術適応と時期

僧帽弁閉鎖不全症に対する手術適応と手術法の推奨

クラスⅠ

  1. 高度の急性MRに対する症候性患者に対する手術
  2. NYHA心機能分類Ⅱ度以上の症状を有する,高度な左室機能低下を伴わない慢性高度MRの患者に対する手術
  3. 軽度~中等度の左室機能低下を伴う慢性高度MRの無症候性患者に対する手術
  4. 手術を必要とする慢性の高度MRを有する患者の多数には,弁置換術より弁形成術が推奨され、患者は弁形成術の経験が豊富な施設へ紹介されるべきであること

クラスⅡa

  1. 左室機能低下が無く無症状の慢性高度MR患者において,MRを残すことなく90%以上弁形成術が可能である場合の経験が豊富な施設における弁形成術
  2. 左室機能が保持されている慢性の高度MRで,心房細動が新たに出現した無症候性の患者に対する手術
  3. 左室機能が保持されている慢性の高度MRで,肺高血圧症を伴う無症候性の患者に対する手術
  4. 高度の左室機能低下とNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の症状を有する,器質性の弁病変による慢性の高度MR患者で,弁形成術の可能性が高い場合の手術

クラスⅡb

  1. 心臓再同期療法(CRT)を含む適切な治療にもかかわらずNYHA心機能分類Ⅲ~Ⅳ度にとどまる,高度の左室機能低下に続発した慢性の高度二次性MR患者に対する弁形成術

クラスⅢ

  1. 左室機能が保持された無症候性のMR患者で,弁形成術の可能性がかなり疑わしい場合の手術
  2. 軽度~中等度のMRを有する患者に対する単独僧帽弁手術

僧帽弁形成術

①アクセス

15-20cmの皮膚切開、胸骨正中切開下に行う方法が標準術式であるが、近年では低侵襲手術として胸骨部分切開、右肋間開胸による小切開手術が試みられている。MICS手術では美容的満足度が高い、輸血量が少ないなどの利点があるが、大動脈遮断時間が長くなるという問題点も報告されている。また、最近ではロボット支援下僧帽弁形成術の多数例報告もされている。

②形成手技

前述したcomplete repairを達成するためには、弁輪拡大が矯正され弁接合が良好であることが必要であり、その目安として5-8mm以上の接合が全長に渡って得られるように注意する。

A) Carpentier’s technique

世界中で行われている標準術式である。基本的には逸脱した病的組織を切除し、“4:3の弁輪を有する正常な解剖の弁”に再建していく手技であり、良好な遠隔成績が報告されている[1,2]。最も多いP2逸脱症例での手技を示す。切除することによって残存する弁尖の高さと形を整え、リングを用いた弁輪形成によって正常な弁接合が得られる。より弁尖の過剰組織が多いBarlow’s diseaseではsliding plastyを行うが、別の部位に逸脱が残る場合には2次腱索か対側弁尖の腱索を用いた腱索移植法を行う。

矩形切除法(右)とsliding plasty法(左)

B) Artificial chord with PTFE

Carpentier’s techniqueの変法として行われている。主に前尖の広範囲逸脱がある場合に弁尖切除や腱索移植を行わずにexpanded polytetrafluoroethylene (PTFE)を用いて逸脱を矯正する方法である。責任腿索の乳頭筋にPTFE糸を固定し、弁の逸脱部のrough zoneにその片端を縫合固定する.長さの調節が重要であり,我々は小さなターニケットを用いた調節方法を行っている。手技が単純で再現性が高く、良好な遠隔成績が報告されている[7]。

C) Respect rather than resect

近年提唱されたコンセプトで、弁尖切除を行わずにPTFEを用いて逸脱部位を再建する。良好な接合を得るためにすべての余剰組織を左室側に移す方法である。最も普及している“loop technique”を示す[8]。健常組織の腱索の長さを測定して,この長さに合わせた人工腱索(loop)を作製し,これを逸先に固定する。この時正中位をloopが超えないよう注意する。loop 法はPTFE糸の最大の欠点である結紫時の滑りやすさと長さの調節を解決し、その単純性から小切開での手術で多用されている。

D)Debriedment of calcification

石灰化僧帽弁を形成するかは未だ議論のあるところである。石灰化が少なければ弁輪の糸を刺入可能であることあるが、困難であれば石灰を一塊として切除し弁輪再建を行い弁形成を行う。

E) Repair of infected valve

感染性心内膜炎では、弁逸脱、弁輪拡大の矯正だけでなく、感染巣の廓清と欠損部の再建も必要となるが、活動期であっても形成できることが多い。弁輪に破壊が及ぶ場合にはパッチによる弁輪再建が必要である。しかしながら,全身状態不良例では手術時間を短時間にとどめるべきである。

F) Ring annuloplasty

すべての弁尖、腱索手技において、人工弁輪をもちいた弁輪形成を行う。正常な弁輪長と弁尖の形態に応じた弁輪の再形成が得られることが重要であり、遠隔期の再弁輪拡大と急性期の組織損傷の予防効果がある。人工弁輪には いくつかの種類(complete ring, partial posterior band; rigid, semi-rigid, flexible)があり、細かいコンセプトは異なるものの、交連間距離(trigon間距離)と前尖の面積でサイジングすることにより変性症例ではどのリングを用いても成績は変わらないとされる。弁輪形成を行わないことは遠隔期再発の危険因子であり、全例に行うべき手技である。

僧帽弁閉鎖不全症の循環動態

急性MRでは左房のコンプライアンスは正常か低下していて、術後の肺動脈圧の正常化は速やかであり、左室収縮能は保たれていることが多い。重症例では急激な心拍出量の低下に伴い肺浮腫と多臓器不全の状態に陥りやすく、適切なカテコラミン、血管拡張剤の持続点滴静注、IABPの使用は心機能を改善し、心拍出量を増加させる。慢性MRでは左房、左室は拡張し、左室収縮能は低下していて、ジゴキシン、利尿剤、ACE阻害剤で管理されていることが多い。術前エコー検査で駆出率60%未満の場合、左室収縮能は低下していると考えられる。一般的に僧帽弁手術後は、afterload mismatch(後負荷不適合)のため、術後左心不全となりやすくカテコラミンや血管拡張剤が必要となるが、僧帽弁形成術では弁置換術に比して術後左心機能に対する影響は少ない。

僧帽弁形成術後の僧帽弁逆流

すべての症例で術中経食道心エコー検査による評価を行う。Mild以上(逆流面積>2.0cm2)の逆流を認めた場合は、再度の形成か弁置換術を考慮すべきである。この場合、エコー検査で残存する逆流の部位と機序を把握しておくことが重要となる。術中残存逆流の原因は、逸脱残存、scallop間のcleft開大、弁縫合線の裂孔、弁尖穿孔、不適正な人工弁輪サイズ、SAMなどである.各々の原因に応じた手技を追加することで再形成が可能となる。SAMの原因としては僧帽弁口に対する余剰な弁尖組織が原因であることが多いが、軽度であれば輸液、カテコラミン中止、後負荷増大で改善することが多い。特に左室が小さく心機能が保たれている症例では注意が必要である。改善がない場合には人工弁輪サイズの変更か、弁尖の高さを低くする必要性がある。PTFEを用いて後尖の自由縁を左室側にお辞儀させ、高さを低くする手技が有効である。 術後退院前、6ヶ月後、隔年でエコー検査を行う。術中経食道エコー評価で逆流がない症例でも,術後早期に軽度の逆流が生じl年後に中等度に増強することがあるので、エコー評価での経過観察は重要である。再発は軽度の残存逆流が遠隔期に増強することが多い。その原因として弁尖の変性の進行があげられるが、明らかな逸脱を認めるものより弁尖の肥厚硬化に伴う接合不全を呈する症例が多い[9]。他に再手術の原因として、弁縫合線の離開、リングの脱離、溶血などがある。経食道心エコー検査で術中に再形成を行うことで手技による再発は少なくなってきているが、術後積極的にBブロッカーを投与し血圧を管理すべきである。形成術後僧帽弁の感染やPannus形成の報告もあるがその頻度は少ない。縫合部組織が治癒し、壁運動が改善してくる術後3-6カ月後のエコーで逆流がなければ長期に渡って安定する可能性が高く、この時点で弁形成が成功したといえる。

成績

僧帽弁形成術の長期遠隔成績として, Carpentier’s techniqueを用いた151例の手術生存例で20年生存率48%と同じ年齢の健常人の予測年齢と差がなく、再手術0.4%/pt-y(20年の再手術回避率、後尖逸脱96.9%、前尖逸脱86.2%、両尖逸脱82.6%)、血栓塞栓症0.17%/pt-y、抗凝固関連出血0.09%/ pt-y と良好であった[10]。しかしながら、15%の症例に中等度以上の逆流あり、近年再発率は中期遠隔期で1-2%/pt-yとの報告が多い[7, 9]。長期生存率について、症状の出現、心機能低下(EF<60%)、心房細動の発症前に手術を行うと健常人の予測生存率と同じであると報告されている。また、既に心房細動の症例ではメイズ手術を同時に行うべきであるが、その有効性は証明されていない。 我々の1991年から2007年までに行った736例の変性MRに対する僧帽弁形成術の成績は, 10年生存率91.9 % ,再手術回避率は91.2%(前尖逸脱87.9%、後尖逸脱96.2%)、MR再発回避率84.5% (前尖逸脱77.5%、後尖逸脱94.7%)であった。逆流再発の危険因子は前尖逸脱、心房細動、人工弁輪の非使用であった[9]。

参考文献
  1. Carpentier A, Chauvaud S, Fabiani JN, Deloche A, Relland J, Lessana A, D’Allaines C, Blondeau P, Piwnica A, Dubost C. Reconstructive surgery of mitral valve incompetence: ten-year appraisal. J Thorac Cardiovasc Surg 1980;79:338–348.
  2. Carpentier AF, Lessana A, Relland JY, Belli E, Mihaileanu S, Berrebi AJ, Palsky E, Loulmet DF. The ‘physio-ring’: an advanced concept in mitral valve annuloplasty. Ann Thorac Surg 1995;60:1177–1185; discussion 1185–1176.
  3. Anyanwu AC, Adams DH. Etiologic classification of degenerative mitral valve disease: Barlow’s disease and fibroelastic deficiency. Semin Thorac Cardiovasc Surg 2007;19:90–96.
  4. 松田輝, 大北裕, 川副浩平, ほか弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2007年改訂版) .
  5. Enriquez-Sarano M, Avierinos JF, Messika-Zeitoun D, Detaint D, Capps M, Nkomo V, Scott C, Schaff HV, Tajik AJ. Quantitative determinants of the outcome of asymptomatic mitral regurgitation. N Engl J Med 2005;352:875–883.
  6. Rosenhek R, Rader F, Klaar U, Gabriel H, Krejc M, Kalbeck D, Schemper M, Maurer G, Baumgartner H. Outcome of watchful waiting in asymptomatic severe mitral regurgitation. Circulation 2006;113:2238–2244.
  7. David TE, Omran A, Armstrong S, et al: Long-term results of mitral valve repair for myxomatous disease with and without chordal replacement with expanded polytetrafluoroethylene sutures. J Thorac Cardiovasc Surg 115:1279-1285, 1998
  8. Seeburger J, Kuntze T, Mohr FW. Gore-tex chordoplasty in degenerative mitral valve repair. Semin Thorac Cardiovasc Surg 2007;19:111–115.
  9. Shimokawa T, Kasegawa H, Katayama Y et al. Mechanisms of Recurrent Regurgitation After Valve Repair for Prolapsed Mitral Valve Disease Ann Thorac Surg 2011;91:1433-9.
  10. Braunberger E, Deloche A, Berrebi A, Abdallah F, Celestin JA, Meimoun P, Chatellier G, Chauvaud S, Fabiani JN, Carpentier A. Very long-term results (more than 20 years) of valve repair with carpentier’s techniques in nonrheumatic mitral valve insufficiency. Circulation 2001;104:I8–I11.