帝京大学 医学部心臓血管外科学講座

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大動脈センター

大動脈疾患 大動脈解離

X線,臨床症状,身体所見から本疾患を疑うことができる.

X線

正面像で縦隔陰影の拡大が見られるが,この所見は非特異的である。大動脈壁の内膜石灰化の内側偏位は,解離を示唆する所見であり,発症前の写真と比較して変化があればより信頼度は高い.解離があるにもかかわらず,単純写真上で異常所見を呈さない症例も約2-3割ある。単純写真は,胸水や心不全などの大動脈解離に合併する二次的所見を評価するに有用である.

臨床症状,身体所見

解離による血管の状態を,①拡張または破裂,②狭窄または閉塞に分け,さらに解離の存在部位との組み合わせることで多様な病態を理解できる。前者では①心タンポナーデ 心嚢内破裂あるいは切迫破裂に伴う血性滲出液貯留によって生じる。急性期の死因として最も頻度が高い、②出血、血腫 最も頻度の高い部位は左胸腔で,次に縦隔,後腹膜腔が多い。③大動脈弁閉鎖不全 解離が大動脈弁輪部に及んだ場合に弁交連部および弁輪が大動脈壁から剥れて、弁尖が左心室内に下垂した状態となる。④解離性大動脈瘤(慢性解離) 慢性期に解離腔が拡張し瘤を形成する。病態は前述した真性瘤と同じで、他臓器圧迫症状、破裂を呈する.後者は約2-3割の症例に発症し、機序としてcompression, dissection、disruptionがある。①狭心症,心筋梗塞 冠動脈の虚血で、右冠動脈が左冠動脈よりも多い.約5%。②脳虚血 頚動脈の虚血で右に多い。約5%。意識障害と局所的神経障害を呈する。③上肢虚血 腕頭動脈や鎖骨下動脈の虚血で、右に多い。約10%。④対麻痺 下行大動脈の解離に伴うAdamkiewicz動脈の虚血で、運動神経領域が冒されやすい。⑤腸管虚血 ⑥腎不全 ⑦下肢虚血 腸骨動脈,時に大動脈の虚血で、他臓器の虚血も合併している場合がある。約10%。下肢の疼痛や冷感がある。この他、DICとSIRSを発症する場合がある.血液検査で白血球数軽度増加、CRP陽性、FDPの上昇、D-dimerの上昇を認める。また、約3割に発熱を認める。DIC合併(FDP 40μg/ml以上)では破裂の危険性がある。
本症の発生に重要な要因は高齢、高血圧、中膜壊死である。若年発症例では嚢胞状中膜壊死が多くみられ、Marfan症候群、大動脈二尖弁や一尖弁、大動脈縮窄、Noonan症候群、Turner症候群など、また40歳前の女性では妊娠・出産との関連が指摘されている。70~80%の症例で高血圧歴があり、Marfan症候群が10%近くを占める。

大動脈解離の病態
大動脈解離の病態

大動脈解離とは「大動脈壁が中膜のレベルで二層に剥離し、動脈走行に沿って1~2cm以上の長さを持ち二腔になった状態」で、大動脈壁内に血液あるいは血腫が存在し、発症直後から経時的な変化を起こす動的な病態である。慢性期に入ると解離腔の拡大を示し、解離性大動脈瘤としての病態をとるようになる。

文献
  1. 高本眞一 ,石丸 新,上田裕一:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版).Circulation Journal, 2006,70(Suppl IV):1569–1646.

CT,MRIなどから本疾患を診断できる.

CT

腎機能に問題なければ、必ず単純CT,造影CT早期相、後期相を撮る.①大動脈解離の有無、②分類、特にStanford分類(A or B),③大動脈径、④周囲臓器との関係、⑤血管外血腫の有無,胸水、心嚢液を評価する。偽腔開存型では二腔構造を,偽腔閉塞型では造影されない偽腔を証明することにより診断が確定する.単純CT での内膜の石灰化の偏位も重要な診断のポイントとなる.造影CTで偽腔は、より拡大していることが多く、遅れて造影される、aortic cobwebの所見(中膜の一部が索状の構造として認識される)、壁在血栓を有するなどの特徴を持ち、壁の石灰化があれば真腔である。

大動脈解離の病型分類

  1. 解離範囲による分類
    ・Stanford 分類
    A型:上行大動脈に解離があるもの
    B型:上行大動脈に解離がないもの
    ・DeBakey 分類
    Ⅰ型:上行大動脈に内膜亀裂があり弓部大動脈より末梢に解離が及ぶもの
    Ⅱ型:上行大動脈に解離が限局するもの
    Ⅲ型:下行大動脈に内膜亀裂があるもの
    Ⅲa型:腹部大動脈に解離がおよばないもの
    Ⅲb型:腹部大動脈に解離が及ぶもの
    逆行性Ⅲ型解離:内膜亀裂が下行大動脈にあり逆行性に解離が弓部から近位に及ぶもの
  2. 偽腔の血流状態による分類
    偽腔開存型:偽腔に血流があるもの. 部分的な血栓の存在はこの中に入れる
    偽腔血栓閉塞型:偽腔が血栓で閉塞しているもの
  3. 病期による分類
    急性期:発症2週間以内. この中で発症48時間以内を超急性期とする
    亜急性期:発症後3週目(15日目)から2ヶ月まで
    慢性期:発症後2ヶ月を経過したもの

エントリーは,剥離内膜の断裂像として認識され、上行大動脈、遠位弓部大動脈に多い。大動脈基部に限局する解離は心拍動によるアーチファクトと鑑別が困難なことがあるが、この場合心電図同期下での撮像が有効である.また偽腔閉塞型解離の急性期には,凝血塊あるいは血腫によって満たされた偽腔が,大動脈壁に沿って長軸方向に広範囲に存在する三日月状の高濃度域として認められる。大動脈解離の臨床的病型は,3つの視点から分類されている。①解離の範囲からみた分類,②偽腔の血流状態による分類,③病期による分類である。治療方針を決定するためには,これら3つの要素を組み込んで病型を表現する必要がある。また、CTは合併症の評価にも重要であり、心周囲の液体貯留の有無や,分枝動脈と解離腔との関係や分枝動脈への解離進展の有無を評価する.偽腔開存型で真腔の大きさが1/4以下の症例では分枝虚血の発生が高いとされる。緊急時の診断としては通常のCTでも可能であるが、外科手術を考慮した症例ではmulti-detecter CT(MDCT)の方がより詳細な情報が得られる。

大動脈解離の診断

MRI

急性大動脈解離の診断において,検査時間が長く患者監視に制約のあるMRI は推奨できない.しかし慢性期の画像評価にMRIは有用であり、前述した真性瘤の検査に準じて評価する。腎機能に問題なければ一般には造影MRAを行う.
偽腔閉塞型においては大動脈径の拡大の有無に加え,解離腔内への局所的な内腔の突出部であるulcerlike projection(ULP)の評価が大切である.ULPは大動脈のどの部位にも生じ,複数存在することや経過観察中に生じることもある.経時的な拡大を認め大動脈瘤となるもの,偽腔開存型解離へ変化するものもあり,特に上行大動脈ならびに左鎖骨下動脈分岐直後や下行大動脈遠位部に認めた場合は注意深い経過観察が必要である。

急性大動脈症候群の概念が理解できる

胸痛を主訴として急性に発症する大動脈疾患群と定義2)され、大動脈解離や大動脈瘤の切迫破裂、intramural hematoma (IMH)、penetrating atherosclerotic ulcer (PAU)などが含まれる。この概念は大動脈疾患を急性疾患または慢性疾患に分けて、診断や治療を進めることが実際の診療の実態に合うことからきている。特に急性疾患は生命の危機がせまっており,急性大動脈症候群の病態を把握し迅速な診断と適切な治療を行うことが重要である。この概念の重要な点は偽腔開存型から偽腔閉鎖型へ、PAU、IMHから偽腔開存型へなどとその病態が変化することにあり、臨床的には急性大動脈解離に準じた対応が必要である。大動脈中膜が血腫により剥離しているが内膜亀裂が見られないIMHは中膜栄養血管出血による局所血液貯留で、大動脈の粥状硬化性病巣が潰瘍化して中膜以下にまで達するPAUは内弾性板を越える粥状plaque破裂,局所的中膜破壊とされる。急性大動脈症候群が疑われたときは,速やかに鑑定診断を行い,手術が可能な病院に移送するか、集中治療室に移動する。

急性大動脈症候群の概念

偽腔開存型大動脈解離:偽腔に血流を認める解離。
偽腔閉塞型大動脈解離:偽腔がすべて血栓閉塞している解離。血栓閉塞型大動脈解離(thrombosed type)ともいう。
壁内血腫(intramural hematoma:IMH):病理学的には内膜亀裂の無い解離.臨床的には偽腔閉塞型解離と区別できない。
古典的大動脈解離 classic aortic dissection:内膜亀裂やフラップを持つ解離.壁内血腫との対比で用いられる
Penetrating atherosclerotic ulcer(PAU):大動脈の粥状硬化性病巣が潰瘍化して中膜さらには外膜まで達する状態

日本循環器学会ガイドラインに基づいた治療方針を理解し,必要に応じて心臓血管外科に紹介することができる.

初期治療

まずバイタルサインをチェックし,鎮痛と血圧コントロールを行い,並行して診断を進める.血圧低下,ショックの場合は,心タンポナーデか大量胸腔内出血を疑い,心タンポナーデには直ちに心膜穿刺,排液を行い,緊急外科手術を行う.胸腔内出血にはドレナージが必要で,呼吸不全があるときは気管内挿管する.多くの症例で発症直後は血圧が上昇しており,塩酸モルヒネを用いて鎮痛するとともに,降圧薬の点滴静注を用いて収縮期圧を100~120mmHgにコントロールする。

急性A型解離

上行大動脈に解離が及ぶA型解離は極めて予後不良な疾患であり、発症直後の死亡率は1~2%/時間とされ,発症から治療開始までの時間をいかに短縮できるかが重要である。①偽腔開存型はすべて緊急手術の適応である。②偽腔閉塞型A型解離や上行大動脈の偽腔が血栓閉塞したDeBakeyⅢ型の逆行性解離に対する内科治療は安定した成績が報告されていて、心タンポナーデのない症例、上行大動脈径が50mm以下で血栓化した偽腔の径が11mm以下の症例では内科的治療を先行することも可能である。近年急性A 型解離手術の病院死亡は10%前後に向上していて、危険因子として術前ショック,灌流障害,術前脳障害が挙げられる。
2008年の日本胸部外科学会の集計では,30日死亡率は上行(基部)置換術 10-15%、弓部置換術 10-20%,下行置換術 10%とされている.

Stanford A型大動脈解離における急性期治療の適応
ClassⅠ

  1. 偽腔開存型A型解離に対する外科治療(緊急手術)
  2. 解離に直接関係のある,重症合併症*を持ち,手術によりそれが軽快するか,または,その進行が抑えられると考えられる大動脈解離に対する外科治療
       *偽腔の破裂,再解離,心タンポナーデ,脳循環障害,大動脈弁閉鎖不全,
        心筋梗塞,腸管虚血,四肢血栓塞栓症など

ClassⅡa

  1. 血圧コントロール,疼痛に対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する外科治療

ClassⅠb

  1. 偽腔閉塞型A型解離に対する外科治療
  2. 偽腔閉塞型A型解離に対する内科治療
  3. 上行大動脈の偽腔が血栓閉塞したDeBakeyⅢ型の逆行性解離に対する内科治療

急性B型解離

B型解離はA型解離よりも予後が良く、合併症のないB型解離の30日死亡率は10%以下である.外科治療が必要となるのは、①合併症(破裂,再解離,灌流異常など)を有する症例、②疼痛に対する薬物治療に抵抗性のB型解離である。また、③内科的治療下に大動脈径の拡大傾向(≧55mm)を認める症例やULPが新たに出現する症例では破裂の危険性があり手術を考慮する。急性期の最大動脈径>40mmあるいは最大部位が弓部遠位にある症例は遠隔期の予後不良因子とされており注意が必要である。日本胸部外科学会の集計では,急性期手術180例で30日死亡率18%である.
内科治療の場合、安静度は破裂の可能性の高いとされる48時間以内は,絶対安静である.血圧管理は100~120mmHgであるが、48時間以降は安静度の拡大とともに解離の安定度と尿量などを慎重に観察しながら,ある程度柔軟に対応するべきである.

Stanford B型大動脈解離における急性期治療の適応
ClassⅠ

  1. 合併症のない偽腔開存型および偽腔閉塞型B型解離に対する内科治療
  2. 解離に直接関係のある重症合併症*を持ち,手術によりそれが軽快するか,または,その進行が抑えられると考えられる大動脈解離に対する外科治療
       *偽腔の破裂,再解離,心タンポナーデ,脳循環障害、大動脈弁閉鎖不全,
        心筋梗塞,腸管虚血,四肢血栓塞栓症など

ClassⅡa

  1. 血圧コントロール,疼痛に対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する外科治療
  2. 血圧コントロールに対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する内科治療

慢性解離

慢性解離の管理は血圧コントロールに支障を来たさない範囲の生活活動を指導する.目標値として,安静時130mmHg未満,最大活動時でも150mmHg未満が望ましい。また、手術適応は真性瘤に準じて、胸部大動脈で最大短径60mm,腹部大動脈で50mmあるいは径拡大速度5mm/年以上とされる。手術のリスクは手術危険因子や再建部位により異なるため,手術適応は個々の症例で破裂のリスクと手術に伴うリスクについて十分検討したうえで決定すべきである.日本胸部外科学会の集計では,30日死亡率は5-6%とされている.

急性期のリハビリテーション

急性期リハビリテーションは、B型急性解離に対する標準リハビリコースが有用とされている。大動脈最大短径4cm以下、偽腔閉塞型でのULPなし、偽腔開存型での真腔1/4以下の症例では、合併症をおこす危険性の少ないことからさらに短期のリハビリテーションがすすめられているが、最大短径5cm以上、DICの合併(FDP40以上)がある症例では注意してリハビリを行う。