帝京大学 医学部心臓血管外科学講座

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大動脈センター

大動脈疾患 大動脈瘤

X線、臨床症状、身体所見から本疾患を疑うことができる.

X線

上行大動脈瘤の多くは右前方に突出し,正面像で上行大動脈の輪郭に連続して右方に突出する陰影として認められる.遠位弓部大動脈瘤は,正面像で左第1 弓の部分に腫瘤状の陰影を呈することが多いが,時に肺門の方へ向い下方へ突出することがあるので注意を要する.下行大動脈瘤では,大動脈の輪郭に連続する紡錘形ないしは円形の陰影として認められる.腹部大動脈瘤では時に動脈瘤壁の石灰化が認識でき,瘤の存在を指摘できることがある.

臨床症状、身体所見

多くの場合無症状であり,偶然,検診や他の疾患の精査中などに発見されることが多いが、①解離発症や瘤破裂によって生じる「疼痛」,②瘤が周囲臓器へ及ぼす「圧迫症状」、③分枝血管の循環障害による「臓器虚血症状」を呈する.胸部大動脈瘤では瘤径の拡大に伴い,①大動脈弁閉鎖不全症,②気管や主気管支の圧排による咳,息切れ,喘鳴,反復性の肺炎,③食道の圧排による嚥下障害,④反回神経の圧迫による嗄声,⑤胸腔内の周囲臓器の圧迫や肋骨への浸蝕による胸痛や背部痛などがある。腹部大動脈瘤では,腹満感,便秘,非特異的な腰痛などの症状がみられ、他覚所見として腹部の拍動性腫瘤で気づかれることもある.早期診断のためには、中年以降の症例では動脈硬化の進行を示唆するような身体所見がないか,若年者の場合にはMarfan症候群など先天性疾患の身体所見がないか,女性では大動脈炎を意識して血管雑音や末梢動脈拍動の性状,眼底などをチェックする必要がある.

CT,MRIなどから本疾患を診断できる.

CT

CT では,①瘤の存在部位,②形態、③大きさと進展範囲、④瘤壁の石灰化や肥厚の程度、⑤壁在血栓の量やその状態,⑥周辺臓器との関係、特に瘤と主要大動脈分枝との位置関係、⑦並存疾患の有無などがわかる.瘤径は手術適応を決める重要な因子であり,計測時は大動脈の走行を考慮して最大短径を正確に測ることが重要である。3DCTや前額断、矢状断像もあわせて評価を行う。瘤を含む数スライスで瘤の短径を計り,そのうち最も大きなものを最大短径とする.また,遠位弓部の動脈瘤では,任意方向のMPR(multi-planar reconstruction)画像がより正確な瘤径を反映する.主要分枝との関係では,胸部大動脈瘤においては,弓部3分枝との距離を含めた位置関係,腹部大動脈瘤では腎動脈および腸骨動脈との関係の把握が重要である.並存疾患について必ず胸腹部CTを行い、他の大動脈疾患、冠動脈と末梢血管の石灰化、肺野条件での慢性呼吸不全の有無について確認する。炎症性腹部大動脈瘤では単純CTで瘤の前方から前側方にかけて瘤周囲に厚い軟部陰影を認め,造影CTの後期相で同部が濃染する。約1/3の症例に水腎症や腸管との癒着,瘻形成などの合併症を生じる.
大動脈瘤の病型を把握するためには,①存在部位,②瘤壁の形態,③瘤の形,④原因の視点からみることが重要であり、下記に示した分類を組み合わせて病型を評価する。

大動脈瘤の病型分類

①存在部位:
胸部、胸腹部、腹部(腸骨)
②壁の形態:
真性:大動脈の瘤壁が動脈壁成分(内膜・中膜・外膜)から成るもの
解離性:大動脈解離で径が拡張して突出や全周の拡張を来したもの
仮性:瘤の壁には動脈壁成分が無い。本来の動脈腔外にできた新たな腔
③瘤の形:
嚢状:動脈局所が拡張して嚢状または球状をしているもの
紡錘状:大動脈全周での拡張したもの
④原因:
動脈硬化性、感染性、外傷性、炎症性、先天性、その他

大動脈瘤は「大動脈壁一部の全周,又は局所が拡張した状態」と定義される.

MRI

CTと同様に,①瘤の部位,②形態、③大きさ、④石灰化や肥厚、⑤壁在血栓,⑥周辺臓器との関係、⑦並存疾患などがわかる.CT と比較した際の利点としては,X 線被曝を伴わない,より高度の腎機能障害例でも造影検査が可能,高度の石灰化病変においても内腔の評価が可能などが挙げられる.一方,欠点としては空間分解能に劣る,石灰化情報が得られず骨構造は描出できない,検査時間が長く救急対応は困難などがある.

日本循環器学会ガイドラインに基づいた内科管理を行うことができる.

経過観察中の管理

高血圧症,高脂血症、糖尿病,高尿酸血症,肥満、喫煙などの動脈硬化性危険因子について管理することが重要である.降圧目標は収縮期血圧で105~120mmHgにすべきで、β遮断薬が第一選択薬であるが、その効果は一定ではない.また,急激な血圧上昇を生じるような急な運動は避けるべきであり、排便時でのいきみ,持続する咳き込みなども注意を払うよう指導する.

胸部大動脈瘤の診断のためのフローチャート
胸部大動脈瘤の診断のためのフローチャート

腹部大動脈瘤診断のためのフローチャート
腹部大動脈瘤診断のためのフローチャート

胸部大動脈瘤における内科治療のエビデンス
Class Ⅱa

  1. 非手術例における降圧目標:収縮期血圧で105~120mmHg
  2. 手術例における降圧目標:収縮期血圧で130mmHg以下
  3. 非手術例における降圧薬の第一選択薬:β遮断薬
  4. 等張性運動の制限
  5. 軽度の有酸素運動は可能である
  6. 非手術例における画像検査(CT検査またはMRI)による経過観察
       瘤径の拡大(-)の場合は年に1 回
       瘤径の拡大(+)の場合は3~6 ヶ月に1回
  7. 画像検査(CT検査またはMRI)による経過観察
       術後3~6ヶ月後の評価
       術後1年毎の評価

術後の内科管理

手術例でも,降圧目標は収縮期血圧で130mmHg以下が望ましい.画像検査は、術後3~6ヶ月に術後の状態を評価し,以後1年毎に経過観察することが望ましい.

日本循環器学会ガイドラインにおける手術適応を理解し,
必要に応じて心臓血管外科に紹介することができる.

外科手術の適応

一般的に胸部大動脈瘤で最大短径60mm,腹部大動脈瘤で50mm、腸骨動脈瘤で30mm、或いは径拡大速度5mm/年以上が手術適応とされる。手術のリスクは手術危険因子や再建部位により異なるため,手術適応は個々の症例で破裂のリスクと手術に伴うリスクについて十分検討したうえで決定すべきである.腎動脈下腹部大動脈瘤は良好な手術成績であり,最大径が45mmを超えたら、年齢,合併症などを考慮し早めの手術治療を選んでもよい。嚢状瘤、仮性瘤ではそれ以下でも破裂する可能性が高いことから注意が必要である.2008年の日本胸部外科学会の集計では,非解離性大動脈瘤に対する待機手術の30日死亡率は、上行(基部)置換術2-3%、弓部置換術4-6%,下行置換術4%,胸腹部置換術7%とされている.弓部置換術では脳障害、胸腹部置換術では対麻痺を起こすことがあることを考慮して手術適応を検討する.

胸部・胸腹部大動脈瘤における治療の適応(マルファン症候群,嚢状瘤を除く)
Class Ⅰ

  1. 最大短径6cm以上に対する外科治療
  2. Class Ⅱa

  3. 最大短径5~6cmで,痛みのある胸部・胸腹部大動脈瘤に対する外科治療
  4. 最大短径5cm未満(症状なし,慢性閉塞性肺疾患なし,マルファン症候群を除く)の胸部・胸腹部大動脈瘤に対する内科治療

Class Ⅱb

  1. 最大短径5~6cmで,痛みのない胸部・胸腹部大動脈瘤に対する外科治療
  2. 最大短径5cm未満で,痛みのある胸部・胸腹部大動脈瘤に対する外科治療

Class Ⅲ

  1. 最大短径5cm未満で,痛みのない胸部・胸腹部大動脈瘤に対する外科治療

ステントグラフトの適応

外科手術の適応を基本とし,これにステントグラフト治療が可能な解剖学的条件が付加される.外科手術かステントグラフト治療かの選択は,両者とも可能であれば,十分なインフォームドコンセントのうえで患者の希望に依存すると考えられる.高齢者、臓器障害、再手術例はステントグラフトのよい適応であり、若年者、両側総腸骨動脈瘤合併例は外科治療が望ましい。日本胸部外科学会の集計では,非解離性大動脈瘤に対する待機ステントグラフト術の30日死亡は2.3%であった。

ステントグラフトの手術適応
ステントグラフトの手術適応
ステントグラフトの手術適応

文献
  1. 高本眞一 ,石丸 新,上田裕一:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版).Circulation Journal, 2006,70(Suppl IV):1569–1646.